古くて綺麗な懐中時計の修理
2002年12月現在、修理を終え、時間合わせの為に調整中。

この懐中時計は大変古い時代の時計です。ムーブメントに1797の刻印が見えますので1797年製かもしれません。この時計はイギリス製で クラウン(ヴァージ)脱進機、鎖引き時計です。当時の時計としては小型でケース直径41.5mm、厚み19mm 。なかなかの高級品だったと推測できます。
 
拡大写真
ムーブメントの写真です。非常に彫刻が綺麗です。
  修理個所は分解掃除及び錆取り、鎖に錆びて不良部分をカットする、ガラスの内側が文字盤に当たり外れていたので削って整形する。分針を後から作っていましたがあまりにも雑な作りなので整形しました。大変古い機械ですからかなり歯車(カナ)に磨耗が見られます。修理期間は約2ヶ月かかりました。
 
ムーブメントを横から見た写真です。この時計独特の鎖(チエーン)が見えています。
ムーブメントを横から見た写真です。特殊な歯車が見えています。
このタイプの時計はご覧の構造になって
います。

閉じる場合はムーブメントをケース側に倒すとバネがありケースに固定され反対に向けても浮き上がりません。

そしてガラス縁を閉じます。
18世紀後半の この当時の時計は
現代と違って貴族か大金持ちしか時計を持てなかった時代です。

きっと、舞踏会でワインを飲みながら片目メガネをさりげなくずらせて、
高級スーツのポケットから自慢のこの時計を取り出して、時間を見ていたんでしょう。
富の象徴として、今で言うとベンツの高級車並みのお金が必要だったと思います。
総じてこの時期の時計は、キンキラキンではなく地味です。

この時代の時計の特徴は「バージ脱進機」と言って、
ゼンマイにチェーンが巻き付けてあり、いっぱい巻いた時と戻った時との差をチェーン引きで、
ゼンマイの力を均一にテンプに送る方法を考え出したわけです。

江戸時代の枕時計なども同じ方法が使用されています

時代はまさに第1次産業革命の真っ只中のイギリス。
産業革命で得た富で、新天地を求めて世界中に植民地を作り、商業的な大航海をした時代。
時計は1日で1時間狂うのが当たり前の時代でしたが、
一度大洋に乗り出すと、時計は二度と合わせられなかった。

ですから より正確な時計は
安全航海のための必需品で、より高い精度を求めて、時計職人たちが腕をふるいました。
買う方も、命がかかっているわけですから、正確な時計ならばいくらでもお金をつぎ込んだ。

その結果として、クロノメーターという現在の機械式時計とそれほど精度差のない
優秀な時計が出来上がった。